小学校五年生
私は日高の山にいた。
体験学習と呼ばれる夏休みのイベントに参加していた。
宿泊施設が用意してくれたお昼のお弁当を持って山を登った。
お弁当はおにぎり2つにお漬物と魚肉ソーセージが1本。それを食べ、沢を下って降りてきた。
帰りの会と呼ばれる集まりで私は山の先生と呼ばれる大人に指を刺された。
みんなの前で何を言われるのかドキっとした。
「みなさん、昼食にソーセージが入っていましたね?どうやって食べましたか?」
どうやって?なんの話だろう。
「君は自分の胸に付いている名札を外して、安全ピンでセロファンを切って食べていましたね。」
はっ!として、いけない事かと思い恥ずかしくなった。
「その工夫が学びです!」
そう言われ、全身が熱くなった。
真っ赤になるぐらい嬉しかった。
お勉強は人並み程度でこんなふうに褒められる事など一度もなかった私はこの体験を強烈に記憶した。
安全ピンでセロファンを開けるアイディアは、父と釣りに行った時に針で餌の粉の袋を開ける姿を見ていたから。
大人に点数や順位以外の事を褒められる事が、ある子にとっては劇的な人生のギフトになる。
この体験で私は胸を張って自信をつけた。
大人になった今でも工夫する事が楽しい。
もちろん、魚肉ソーセージは大好物である。