人と食

人と食のエピソード。笑って泣いてカリフォルニア。

風に叩かれた話

f:id:hitotoshoku:20200707061343j:image

地平線の広がる大地で来ないバスをひたすら待ちながら、リュックについたキーホルダーをひたすらカチカチと鳴らしながら私はバスを待った。

風が吹き上がり、

野花の髪を揺らす。


強がって一人で来たはいいけれど、

足元は今にも震えそうだ。

このままバスが来なかったら…

時折こみ上げてくる不安に打ち勝つために更に強くキーホルダーをこすり合わせる。


電話もないし、人もいない。

バスはこないし、ここが正しいバス停なのかも定かではない。

足元の土は白っぽく乾き、

明らかに外国らしい色をしている。

下ばかり見ていると消えてしまいそうだ。

前を見て、ただ風が綿毛を吹き上げる様子を見る。

風は種を飛ばしているのか。

私はただバスを待つ人。

風は私よりも遥かに有能だ。


強い風に色を感じ目で追うとバスが来た。

バスに乗ると涙目だ。

運転手が笑う。

バスに乗るのは初めてかい?

あまりにもこないから心配だった。

僕はまっすぐ走らせていたけどね。

 


自分の勝手さに気づき呆れる。

何もできないのに偉そうに一人旅か。

バスに入り込む風は強風だ。

ちっぽけな17歳はオーストラリアの風に頬を叩かれた。


バスを降りて友達と再会して、たわいもない話で盛り上がった。

叩かれたことなどすぐに忘れてしまった。

若かったから。

 

20年経ち
おばさんになって綿毛を見かけるとハッする。

心の中にはきちんと残っている。

そして、

「人より風の方が立派かもしれないよ」と子供に伝える。