人と食

人と食のエピソード。笑って泣いてカリフォルニア。

宝物

時々こうしてレシピを広げ、眺めながらコーヒーを飲む。

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お料理をするのも教えるのも好きだけれど、学ぶことが何よりも楽しかったと今でも思う。


実習に参加する時は一番前の席を取る為にいつも一番乗りだった。

クラスが始まる前に、アシスタントの人の動きや、下処理をメモした。

配られる献立表の裏にみっちりとイラストで工程を書いた。

今のように写真や動画が撮れる便利な携帯電話はなかったからひたすら描いた。もしあっても、先生の前で撮ることは出来なかったかもしれない。

ある時、人気の料理教室に参加した。一見さんの私は前の席は取れないので一番後ろに立った。ヒール靴を履いて170cmを超える高さから先生の手の動きを描いた。ヒールは作戦である。2時間、手を止めず描き続けた。

帰り道、クラスを受けていた一人に声をかけられた。

「もしよかったら、さっき描いていたものを見せていただけませんか?」そう聞かれ、

「これでよかったらコピーしますか?」と答えると年上の女性は喜んでくれ、一緒にコンビニまで歩いた。

歩きながら、美味しいパン屋さんの話やお仕事の話、資格の話に盛り上がった。

彼女の名前は忘れてしまったが、

彼女の勧めてくれた渋谷のパン屋さんは私のお気に入りになり、彼女お勧めの資格も取得した。

レシピを通した出会いは他にも数え切れないほどある。

「何を描いているんですか?」から初まる人との出会いは私の人生を豊かにしてくれた。

水が飛んで滲んだレシピ、カピカピになった卵が付いているものもあるし美しいものではない。でも、こういうものが宝物というのだなと思う。

宝物を眺めながら飲むコーヒーはとても美味しい。