和子12歳
母が何事もなかったように手を洗って台所へ来た。
「あら、カレー作ってくれたの?
助かった、ありがとう!」そう言った。
一体何がおこったのだろう。
おじいちゃんが、なぜ病院から帰ってこられたのか知りたい。
親戚が集まり、病院に駆けつけ、暗い夜を過ごすのかと覚悟を決めカレーを煮詰めていた。
母は何でこんなに普通に台所に立っているのだろう。
冷蔵庫から福神漬けを出した母はいつもと変わらない。
おじいちゃんがおトイレへ行きたいと言った。
母が連れて行く、あまりにフラフラなので私も一緒に支えた。これは歩ける状態ではないと感じた。顔も真ん中に寄って苦しそうだ。私の支えている手は痺れるほどおじいちゃんの体重を感じた。
おトイレを手伝っていると、
ふと、おじいちゃんが私に気が付き、目を光らせて、
あ"あ!と
大きな声を上げた。
私は驚いてその声に吹き飛ばされた。
階段の下まで吹き飛んでしまった。
鋭い眼差しと大声、私の知っているおじいちゃんではなく、人間とは思えない猛獣の様だ。
驚きと悲しみと戸惑いを抱えて私は階段を駆け上がり自分の部屋へ入った。
涙が止まらなかった。
おじいちゃんの気持ちが今なら分かる。
孫に下の世話を手伝わせることはおじいちゃんは望まなかった。あの状況でも、そういうしっかりとした気持ちを持っていたおじいちゃんに頭が下がる思いだ。
そして、生きる葛藤と不安の中にいたのだと思う。生きるとはとてつもなく大変なことで、その生き様をおじいちゃんは見せてくれ教えてくれた。
今なら、おじいちゃんの好きなように振る舞えばいい、全てうまくいっているから大丈夫。と言ってあげられると思う。
そういう事をおじいちゃんは家に帰って来て私に教えてくれた。