和子12歳
どのぐらい泣いたかわからない。
父が部屋に入ってきて、
「下で一緒にカレーを食べよう」と私に声をかけた。
何も答えなかった。
部屋を出る時に父が言った、
「ママの為に降りてきてね」
その一言にハッとした。
母はおじいちゃんを連れて帰ってきた。
どんな事が病院で起きたかは知らないけれど、相当な覚悟で連れて帰って来たに違いない。
数年前の地域の運動会、風船割り競争に出場した母をおじいちゃんと応援した。周りの人に「うちのお嫁さん!」と嬉しそうに言い、カメラを構えたおじいちゃんの姿がふと頭に浮かんだ。みんな元気な頃の楽しい思い出だ。
しっかりしなくちゃ。
たった一撃で打ちのめされた自分が幼く悔しかった。
その日のカレーはどんな味だったか覚えていない。でも、家族の誰もが覚悟を決めた味だったと思う。
食卓に組まれた円陣。
大切な人を生かすために家族が一つになる。
いただきますの掛け声と共に。