初めて青梅を買った記念すべき年、2021年初夏。
梅といえば実家に老木があり、半世紀以上、夏には実をつけている。
子供の時、落ちている青梅を道に並べて、ローラースケートの車輪の間を通れば小ぶり、通らなければ集めて叩いて割ってみるという不思議な遊びをしていた。
ほんの僅かだが梅干しも作っていた。ベランダに干された梅干しを眺めていると、何度も「まだ食べられないからね!」と家族に念を押された。みんな、私が誰よりも食いしん坊なのを知っていた。
梅酒も家族の大切な思い出だった。
おばあちゃんが亡くなって10年以上経ってから「梅酒」とおばあちゃんの字で書かれた瓶を見つけてオエオエ泣いてしまった事がある。
飲んでみるとトロっとして居酒屋さんで飲むものとは随分違った。苦しいほど美味しかった。おばあちゃんが亡くなった時私は中学生、二十歳を超えた私がこれを飲んでいる。そう思うとクラクラするほど気持ちを揺さぶられた。
飲みながら、瓶のラベルを何度も撫でて、会いたいな、会いたいなと話しかけた。
あの細くて綺麗な手でこれを書いたんだな、
梅仕事をする手、おにぎりを握る手、お茶を点てる手、私には持ち合わせない美しい手を持っていたおばあちゃん。あの手に触れたくなりゴーゴー泣いた。ぬるい梅酒を片手に、どこまでも深く思いを巡らせた。
梅には思い出が多すぎる。
だから今まで買わなかったのかも知れない。
買えなかったのかも知れない。
きっかけは、友達が、「日系スーパーに青梅が出ていますよ」と連絡をくれたこと。
梅はカリフォルニア産。
友達に背中を押されて、青梅を買った。
そして、彼女に教えてもらった梅シロップを作ってみた。
瓶を消毒して、
青梅と氷砂糖は1対1で交互に入れると、
2週間ぐらいで梅シロップが出来るとは!
冷暗所に置いて、毎日瓶を回して、出てきた水分が全体にいくようにする。
私の場合、瓶を見えないところに置いてしまうと、作った事自体を忘れてしまう可能性が高いので、キッチンにどーんと置いた。
タオルで包んで冷暗所を意識。
そして2週間が経った。
もう、梅を取り除いてもいいらしいが、
萎んだ梅がおばあちゃんとの思い出を映し出し、また泣いてしまいそうで、静かにタオルで包み元に戻した。
きっと明日も明後日も
梅を取り出せなくて、
梅から渋みが出てくるだろう。
それをお酒とソーダで割って飲みながら、
苦い苦いと私はまた泣くと思う。