「世界」という言葉にめっぽう弱い。
世界の食卓、世界の朝食、世界の人々
世界中の人がどう暮らしているかに子供の頃から興味があって、教科書の中でも地図帳が一番好きだった。新卒で就職した会社は「世界中に笑顔の溢れる食卓を」という企業理念を掲げていた、その言葉に心を奪われその一社だけを受けることに決めた。そう、いつも「世界」という言葉に惚れて惹かれて共に歩いてきた。

そんな世界にメロメロの私が、もし世界を語るならメロンパンだなと思っている。メロンパンがわたしに見せてくれた世界を今日は少し文章にしてみたい。
メロンパン

久しく焼いていないし、忘れていたが、わたしはメロンパンが好きだ。きっかけは小学校の時で、当時母がパンを習っていた。ある日学校から友達を誘って自宅で遊んでいたら、母がおやつに「焼きたてのメロンパン」を出してくれた。そのメロンパンの美味しさはとびっきりで、今まで食べたパンの中でダントツの美味しさだった。あの温かさとサクサクさと両手で持った時の幸福感。その後、何度もメロンパンを作って作ってと母にせがんだ。まさにメロンパンに大ハマり。だが、もっとハマっていたのは一緒に食べた友達の方だった。彼女は将来の夢に、メロンパンが作れるお母さんになりたいと学校で発表したと報告してくれた。それを聞いてとても誇らしかった。おやつのメロンパンがわたしたちの未来を広げてくれた。
世界のメロンパン
大人になって、世界中にパンがあって、メロンパンに似たものがたくさんあることを知ることになる。
人種のサラダボウル、サンフランシスコに住むようになって、美味しいものもその人たちと一緒にこの国にやってくることを知りカリフォルニアから動けなくなった。
結婚する前、わたしはサンフランシスコのチャイナタウンのすぐ側のアパートに住んでいた。そこはまさに「香港」。中国語が公用語のそのアパートの契約は中国人の友達が助けてくれた。ここは中国の高齢者住宅に住むのと同じだよと友達に言われたが気にならなかった。その頃は結婚の話が出てきた時期で、これが最後の一人暮らしかもしれないと思ったら異国の環境に身を置きたくなってしまった。アメリカで働きながら中国に住めるなんて一石二鳥でもあった。アパートはキッチンが共同の為、好きな時に香港の家庭料理見学が出来たのも魅力の一つだった。言葉は通じなかったけれど、みんなに良くして頂いた思い出しかない。部屋のドアノブに美味しいものをかけてくれたりと食の交流があったのも楽しかった。ドアノブにかかっていたもので思い出の味の一つ、それが、
パイナップルバン
パイナップルバンは、パイナップルは入っていない香港の菓子パン(菠蘿包、ポーローパオ)。メロンが入っていない日本の菓子パン、メロンパンと同じ!形がパイナップルなだけ。
香港のメロンパン!

こちらは 菠蘿油(ポーローヤウ)と言って、バターが挟まっているもの。こちらの焼きたてが美味!バターに裏切られた試しなし。
お店によって塩気が効いていたりするのもある。本場の味を知らないのでどれが正解なのかは分からない。
他にも美味しいパンはいろいろあるけれど、懐かしくて食べたくなって並んでしまうのは、あのアパートに住んでいた時の人の優しさが味の記憶になっているのだと思う。



メキシコのメロンパン、コンチャ

もう一つ、カリフォルニア暮らしで大変お世話になってきたのがメキシコのごはん。タコスにブリトーは学生時代ハンバーガーやピザよりも食べる機会が多かった。そして、とにかくお腹が空く学生にとって、安くて甘くて大きい菓子パン、どこでも手に入るコンチャの存在は大きかった。見た目も味もメロンパンと似ているが特別有名になることもなくいつも静かに売られていたのがコンチャである。
霧のかかるサンフランシスコで永遠に来ないバスを待ちながら、ぐーぐー鳴るお腹の音は上手く逃し、バスの音に耳を傾けていた。あの冷たいバス停のベンチからどうにでもなれっ!と立ち上がり目の前のガソリンスタンドでコンチャを買いに行くのか、それともこの空気感を信じて待ち続けるのか、葛藤だった。全てが上手くいってバス停の横で食べられた日のコンチャに味はなかった。心ここに在らずの食事ほど無味なものはないということを教えてくれた。
コンチャという名前の由来は最近知った。コンチャはスペイン語で「貝殻」という意味らしい。メロンパンやパイナップルバンと同じ形由来の名前である。
結婚して、母になって、焼きたての美味しいコンチャが売っているお店に出会った。

生地もしっとりと品よく甘く、コンチャってこんなに美味しいのか!と驚いた。お店もナパの歴史的建造物で可愛いし、併設されたレストランも美味しい。



美味しいコンチャが買いに行ける距離にあるのに何故か意外と行かない。

今でも急に食べたくなって食べるのは、ガソリンスタンドで買うコンチャなのである。熱いミルクコーヒーにコンチャを浸して食べる時、味わって感謝して、あの頃急いで食べて悪かったね、絶品ではないけれどあなたが時々恋しくなるのと語りかけながら食べている。
おやつのメロンパン、パイナップルバン、コンチャ、世界のメロンパンはわたしに食とは味だけではないことを教えてくれた。