人と食

人と食のエピソード。笑って泣いてカリフォルニア。

大空に繋がるメモ帳

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この夏にキャンプへ行って、小4の長男がテーブルセッティングをした夜があった。その時、持参した「メモ帳」を使って名前を書いてくれていた。これを見て、私はある大切な出会いを思い出した。

 

メモ帳と出会い

私が小学校4年生の時、父の転勤で札幌に住んでいた。その頃、学校週5日制に伴い「サタデーテーリング」という地下鉄の各駅を巡り、スタンプを集めていくという楽しいイベントがあった。

土曜日にクラスメイト男女6人ぐらいでお弁当を持って出かけた。待ち合わせの場所で、地下鉄の地図を広げ、効率よくスタンプを集められる戦略を練った。

その日は天気が良かったので、地下鉄を離れ、バスに乗って、公園でお弁当を食べることになった。

私たちにはリーダー的な男の子が1人いて、いわゆる乗り物博士で、彼についていったら迷子になる事はなかった。

しかし、知らない駅の地上に上がり、路線から離れると私たちは一気に不安に陥った。

このバスに乗ったら、遥か彼方に行ってしまうような不安。

そこで、思い切って、歩いているお爺さんに声をかけた。「すみません、〇〇公園へ行くにはあのバス停であっていますか?」

振り向いたお爺さんは、背筋の伸びた素敵な紳士だった。

「あのバス停です。私もその公園に行きますよ。」

一緒にバスに乗った。

私たち全員、目はお爺さんの指の間に挟まった2機の紙飛行機に注目していた。

機体は白く、胴体は硬そうで、厚紙で作られており、頭の部分だけ黒いデザインがつるの様だった。

公園に着き、お弁当を食べた。

食べ終わるとすぐに、みんなお爺さんの所へ駆け寄った。お爺さんの紙飛行機は、私たちの想像した紙飛行機ではなかった。木の棒にゴムのついたもので紙飛行機を飛ばすと、空に向かって真っ直ぐに飛び上がり、その後、周りの空気を船にして集めるように、紙飛行機は空気の舟に乗ってゆっくりと空を舞う。その光景に話すことも忘れて見惚れた。

時間が経つにつれて、私たちは着地した紙飛行機をお爺さんに届けるという仕事を見つけた。

そして、当然、飛ばしてみたい!あの紙飛行機が欲しい!となり、お爺さんがこんな約束をしてくれた。「これは手作りなんですよ。約束しましょう、皆さんの分を作って届けてあげます。どなたか書くものを持っていますか?」

「持っています!」私はカバンからメモ帳とペンを出し、住所と電話番号を渡した。お爺さんは、「楽しみにね!」と言って颯爽と帰って行った。

 

北海道のおじいちゃん

それから数日が経ったある日、お爺さんから連絡が来て、我が家へいらっしゃることになった。両親は私の話を聞き、我が家で「紙飛行機レッスン」を開催することを快諾してくれたのだ。

友達を呼び、お爺さんは本当に現れ、私たち分の紙飛行機を手製の取手のついた木箱に入れて来た。

狭いマンション、父がソファーを移動して紙飛行機を飛ばす場所を作ってくれた。母が手料理を作ってくれた。楽しい時間はあっという間だった。

帰り際にお爺さんが母に言っていた言葉が忘れられない。

「私は子供との約束は絶対に守ります」

この言葉は小学校4年生の私の心に深く温かくのこった。 

それから、お爺さんと我が家の交流が始まった。いつの間にかお爺さんのことを北海道のおじいちゃんと呼ぶようになっていた。何度目か、お爺さんが我が家にいらした時には、父の紙飛行機も完成し、紙飛行機を飛ばしに行くのは家族のイベントになった。

お爺さんは毎回我が家に来る時、手土産に大きなケーキの箱に、食べ切れないほどの色とりどりのケーキを包んでやって来た。きっとお店に並ぶケーキを1種類ずつ全部入れてもらっているのだろうと思った。とても贅沢なお土産だった。

お爺さんはいつも私に言っていた、

「あなたのお母さんの料理が何よりです」

母は山菜を煮たり、北海道に住んでいる今だからこそ味わえる料理を作っていた。それが一人暮らしのお爺さんには何よりものご馳走だったのかもしれない。

 

大空に夢を

それからも、北海道のおじいちゃんとの交流は続いた。サッポロビール園のオルゴール館での食事、東京から工学博士を招いてのお食事会まで、私たちには到底お目にかかれない方にまで会わせて頂いた。たくさんの教養を与えてくださったお爺さんには感謝の気持ちでいっぱいである。

私が中学生になると、紙飛行機よりも楽しいものをたくさん見つけ、部活も忙しくなり、お爺さんと両親の交流がメインになってしまった事を今となればもったいなかったなと思うこともあるが、素晴らしい出会いだった事には間違えない。

私たちが東京に戻って来てからの文通では、JALの絵葉書に「大空に夢を!」と書かれたものがあった。これは私の好きな言葉になった。

 

出会いときっかけ

お爺さんに出会わなければ、父と紙飛行機を作る時間も、長く飛べ!と家族で空を見上げる時間もなかった。

お爺さんはもう大空へ旅立ってしまったけれど、私たち家族にたくさんの時間をプレゼントしてくれた。

「きっかけは貴方のメモ用紙ですよ」

そう言って下さったけれど、きっかけを出会いに変えて下さったのはお爺さん。

私はあなたのような大人になりたい。