小さい頃
毎年2月に、ベルギーから仕事の都合で帰国する叔父がお土産で持ってきてくれたのがレオニダスのチョコレートだった。
見た目は父とよく似ていた叔父。
叔父は外国のコロンの良い香りがして、私が読めない文字をスラスラと読む。そんな姿を見て、やっぱり全然父と違うな〜といつも感じていた。
2月の叔父は夏に家族で遊びに来る時とは違い、いかにもビジネスマン的な姿で、静かに新聞を読みながら朝食を取る姿がかっこよくて、ちょっと離れたキッチンのカウンター越しから叔父を眺めていた。
叔父のスーツケースはわたしの憧れが詰まっていた。
叔父の奥さん、フランス人の叔母が選んだ大きな箱にぎっしりと詰まったレオニダスのチョコレート。その箱がスーツケースから出てくると、我が家の食卓が外国になった。
他にも、白地に紺色の素敵な模様のついた箱のビスケットや、見たこともないほど薄くて軽やかなお菓子などがスーツケースから出てくる度に胸が高鳴った。
でもやっぱりその中でも、
金色の箱にクルクルした細いリボンがかけられていて、中は二段分ぎっしりとチョコレートが詰まっていたレオニダスのチョコレートは別格の気品があった。
学校から帰ってくると、おばあちゃんとおばあちゃんのお茶飲み友達がいつも食卓にいた。
私は納戸から自慢げにチョコレートの箱を持ってきて、
「ピカピカの紙で包まれているのはお酒が入っていてパパのなの、このポコってしたのは木の実、この長いのはサクサクしているのが中に入っているの!…」とおばあちゃんの友達にチョコレートの説明をすると「和ちゃんは詳しいね〜」と返してくれた。
箱の中からお気に入りを数個選び、おじいちゃんの部屋へ行き、掘り炬燵に潜り込み、首だけ出して頬張る外国のチョコレートは格別な美味しさだった。
まだ見たことのない世界を想像するのに十分な甘さがあって、包み紙に書かれた読めない文字をぽろぽろりんと読めるふりをする楽しさもあった。
レオニダスのチョコレートに再会。
パクっと食べて、
口いっぱいにとろけるこの味が記憶の場所に私を連れて行く。一口で過去に戻された。
あぁ、そうだった
このチョコレートにわたしは憧れを抱いていたんだった。この一口に思い描いた外国があった。そうだったそうだった。
久しぶりに口にしたレオニダスのチョコレートは、わたしを小さな女の子に戻してくれた。
包み紙の文字はぽろぽろりんと読んでおく。