和子12歳
マッキと呼ばれるおじいちゃんの
介護をする為に父の転勤先の札幌から父をおいて東京の家へ家族で帰ってきた。
電話先でおじいちゃんが「帰ってきてくれよぉ」と私に言った一言で両親は決めた。
孫に漏らした本音だった。
3年半前に7人で暮らしていた家は少し小さく感じた。
おじいちゃんを中心に新しい生活が始まった。
おじいちゃんの楽しみは食事だった。
毎日家族で囲む食卓がどれだけ尊いものかを教わった。食卓につくために命をかけて参加する家族がいること、今日も食べられた、今日も座っていられた、小さなことが大きな喜びだった。
3ヶ月後、とうとうその日が来てしまった。
学校から帰ってくるとおじいちゃんがいなかった。
病院にいるらしい。
夕方になって、母がいないので私はカレーを作った。大きな縦長のお鍋にカレーを作った。
誰かが親戚に電話をしていた。
親戚が集まるのかな…
私はカレーに水を加えた。
また電話をしている声が廊下から漏れてきた。
カレー鍋にまた水を足した。
これからどんな事が起こってどんな生活になるのだろう。
…私はただ俯いて、カレー鍋を混ぜ続けた。
じゃがいもは崩れ、流れ、すっかり溶けてしまった。
電話が鳴った。
台所から出られなかった。
今この家に誰がいるのかもわからない。
ただ、しゃばしゃばになったカレーを無心になって混ぜ続けた。
鍋の中に不安の渦が出来ては消え、
出来ては消えた。